やましいたましい

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だれもしらない しられちゃいけない〜 Zazen Boys - Himitsu Girl's Top Secret〜

ZAZEN Boysの向井くんのいうところによれば、全人類の実に80%以上がヘンタイなのだそうである。わぉ〜!
それでもそれを聞いてわたしがおもいだすのは、もう十年以上前に働いていた職場先の先輩Mのことである。その先輩は見るからにそう見えるかというと、そうではない。むしろその当時のわたしからみて一番の常識人だった。先輩Mは仕事もできて後輩の面倒みもよく、職場でも信頼のあつい文字どおりいい人だった。くわえて見栄えもよかったので職場でもかなり人気があったとおもう。わたしもよく面倒をみてもらったし、世の中にはこういう出来た人もいるんだと、当時二十代のひねくれ根性まるだしのわたしでもそうおもっていた。尊敬していた。まわりでは唯一尊敬していた人だったかもしれない。
ある日わたしは、その先輩M夫婦に家に招待された。何で招待されたかは覚えていない。単に食事に招待されただけかもしれない。何があっても行かなければと、そのぐらい忠誠にも近いものがあったとおもう。実際その日はなごやかにすすみ、わたしも大変ご馳走になり申し訳ないくらいだった。気遣いが伝わってきて、わたしも盛り上げなきゃとおもった。楽しい時間にしなけば。
実際夫婦の仲もよく、人生の話、仕事の話などたくさん話をした。音楽の話もした。先輩もこだわりある音楽の話について、ひとしきり話していた。わたしも全身で受け止め、全力で応えた。気を使ったけど全然楽しい時間だった。
時間もひとしきりたって食事も会話もひと段落し、もうそろそろ終盤というときに、なにかの流れで調味料かなんかが欲しくなったのだとおもう。わたしは少しでも動かなければと、率先して場所をおしえてくれれば取りに行くといった。先輩夫婦を快く応じてくれた。わたしは言われたとおり、その調味料がある冷蔵庫に向かった。冷蔵庫を開けると調味料はあっさり扉側にあった。わたしは軽く用事を済ませたと、すぐ扉を閉め戻ろうとしたところ、冷蔵庫の一番下の段になにやら黒い物体があるのに気づいた。いや正確には黒い物体たちだった。わたしは少々悪いとはおもったが、どうしても気になり、まじまじと確かめてみた。するとそこにはバナナやら、キュウイやら、あと何だかわからない相当日にちの経ったものが、整然と並べられていた。どれも終わりを告げるようなドス黒い色をしていた。おそらく何日経ってたかは正確にわかった。なぜならそのくだもの一つ一つに入れた日であろう日付がていねいに貼ってあったからである。わたしはいったい何なんだろうとおもいながら調味料を持ちかえりながら、おそるおそる聞いてみた。すると先輩Mはなんてことないような顔さらっと話した。
「これね、腐る寸前あたりのがいちばんおいしいんだよ」
聞けば先輩Mはあの腐ったも同然のくだものをやはりとおもったが食べるのだという。わざとそうしているのだという。もっと聞けばそれは今に始まったことではなく、もうずいぶん前からで、もう今ではどのくだものでもそうして食べているのだという。始めは忌み嫌っていた奥さんも今では一緒になって食べるのだという。真っ黒になるまでおいてから食べているのだという。わたしは引っかかるものをかんじながら、なにか鈍痛のような衝撃を抱えながら家に帰った。帰ってからもしばらくはそのことが頭の中でぐるぐる回っていた。
それだけの話である。ただそれだけの話。あれ以来先輩は特に変わったわけでもなく、相変わらずいい先輩で、職場での評判も変わらす、それはわたしがその職場を離れるまでいっさい変わらなかった。
別に何がどうということでもない話なのかのしれない。変わった食べ方をする人は中にはいるだろうし、案外おどろくことではないのかも知れない。変わっているといえば、わたしだって相当変なところはある。ただわたしの中で一番の常識人だった先輩が、イメージと違うところがあったのがショックだったのという、ただそれだけのオチなのかもしれない。
ただその後、いたるところで幾度となく”ヘンタイ”というフレーズを耳にするだびに、わたしはすぐにあの時の経験をおもいだす。それはパブロフの犬のようにやってくる。あのていねいに日付をいれた、まるで果物の死体のようなものを、いとおしくみつめる先輩Mと、やけに薄暗い冷蔵庫の光景が脳裏に浮かぶのである。



だれも知らない 知られちゃいけない



ひみつ がーる とっぷ しーくれっっと!




バンドサウンドを追求した時期のZAZEN Boys大傑作


HIMITSU GIRL'S TOP SECRET

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