やましいたましい

音楽を中心に服、本、生活の話題など

うらやましかったんだと思う。

遠くの空で割れるようなカミナリの音がして、窓の外をみたら随分と空が黒ずんでいた。向こうはだいぶ降ってんのかなと思っているうちに、みるみるこちらの空も曇ってきて、一気に大雨になった。夏の空は変わり易い。急いでベランダに出しておいた鉢をしまいこむ。洗濯物を確認したら、こちらは妻がバイトに行く前に取り込んでおいてくれてみたい。雨足は強いのですばやく窓を閉める。そしてすかさず冷房のスイッチだ。なんとなく節約をしようと身についているからか、なるべく冷房は付けないでおこうとしているが、誰に決められた訳でもない。でも本当は夏は出来るだけ窓全開でいきたい。うちのアパートは通りに面しているので、車が通るとうるさくて、テレビの音が聞こえなくなるからイラっとくることがあるけれど、時々聞こえてくる誰かの会話や、遠くの方で電車が通る音はなんとなく心地いい。外の音が私の個人的な生活の中に混じってくるのがいいのだ。だから出来るだけそうしたい。
いつだったか、夜中に窓全開にしてた時、どっかのオヤジかだれかが路上に唾を穿く音が聞こえて、妻が「きたねーな、いっつも決まったオヤジがやるんだよ」と何故か知ったふうなことを言ってた。ある夜なんかは酔っぱらっているのか大声でうたっている人がいて「へたくそー」と妻が罵っていたが、わたしはあまりにも気持ちよさそう歌ってるのに逆に感心してしまった。たぶんグレイかなんかの曲だと思う。わたしはグレイはあまり知らないが、そんな私でも耳にしたことがあるから相当有名な曲だと思う。完全になりきっていて、クセだけは捕まえていたが、たいがいはヘタクソだった。妻は笑っていたが、なんだか私はうらやましかった。ここまで相当入れ込んでる、相当聴きこんでるんだろう。好きなんだなと。あの夜、大声でうたう彼の脳裏には相当多くの聴衆がいたのだろうか。どこまでも届かせようとばかりの彼の歌声は近所中響いていた。そうか、感心していたのではない。うらやましかったのだと思う。


ベストラッピン 1996-2008

ベストラッピン 1996-2008