やましいたましい

音楽を中心に服、本、生活の話題など

バイブ虫

夜、家に帰って車から外に出た時の、何ともいえない涼しげなかんじが心地よかった。今日は部屋の窓を全開に開けることにする。この熱帯夜を過ごす為に、ムッとした雨模様を避ける為に、最近はずっとエアコンに頼らざるおえない日々を過ごしていた。だから窓を開けるのも久しぶりだ。わたしは開けられる窓という窓はすべて開けた。窓を開けた瞬間にひんやりした空気が右腕に触り、一気に部屋の空気に混ざりこんでくる。もしかしたら今は一年でいちばん過ごしやすい時期なのかもしれない。
窓を開けるとあらためて気づくが、外からは実に様々な音が聞こえてくる。虫の音が幾重にも重なって終始鳴っている。誰かの楽しそうな話し声が、すぐそこの通りを軽やかに転がり過ぎていく。突然耳を劈くように唸りをあげ去っていくバイクの音がする。彼らの吐き出し足りない叫び声のような音だ。そして時折携帯のバイブの音が聞こえてくる。ちょうど上の階の人も窓を開けているのだろう。そこから聞こえてくる。虫の音に混じって、以外とはっきり聞こえてくる。マナーモードでも相当響くんだとおもいながら、わたしは別に観るでもないテレビを眺め、たいして読むでもない雑誌をめくってる。その携帯のバイブ音は、ちょうど定期的に一分おきくらいのハイペースで聞こえてくる。なにやらあたらしい虫の音のようにも聴こえる。いうなればバイブ虫だ。たぶん恋人なんかとの会話調のメールのやり取りしているのだろうか。
「今なにやってる?」
「え、今テレビみてる」
「今度いつ、あおっか!」
「そうね・・」
ってなかんじか。それにしてもマナーモードでも、ほんとよくもまあ響くものだ。わたしが、なぜこんなにも驚いているかといえば、わたしは普段どんな時でも、携帯はマナーモードにしてるからだ。携帯の目覚ましもバイブ音。それで十分起きる。まわりが着メロだなんだっていっていた時もわたしはブレなかった。ほんといつ何時もマナーモードなのだ。なぜだろう。いつの間にかそうしてた。大事な時にうっかりでも迷惑をかけないからいいという利点もあるが、結局は、性根が元来コソコソしてるという性格が起因しているのではないかと、わたしはおもっている。
そんなことを考えていたら、こんどはそこから笑い声が聞こえてきた。たまらず電話に切り替えたのだろうか。「○○○だよ〜あっはっはっは〜」と笑っていた。なにやら随分楽しそうじゃないか。何をいっているかはわからない。だけどえらく楽しそうだ。だから今日はそれでいいんじゃないかとおもう。
わたしは今、おおきな曲がり角の前に立っている。分岐点ではない。やはり曲がり角だ。今のところ、わたしにはその道以外まったく見えていない。それ以外もう、無いとさえおもっている。だからその道をゆっくり進んでいくのだろう。まるでゆるい波にでもさらわれていくみたいに。
いまはもう、夜中の3時だ。バイブ虫もすっかり寝静まった。わたしも、そろそろ寝るとしよう。