やましいたましい

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今週のお題「夏の必需品」絶妙なタイミング

ひとには絶妙なタイミングでダメなときがある。
たとえば、ついさっき洗車したばかりの車が突然の雨にさらされたり、またはほんのちょっと家を空けた間に待ち焦がれた宅配便がきてしまい、「ロミオォ〜!」的なかんじで宅配便の後姿を追いかけるハメになったり。まさに「えーっ!」ってなかんじで絶妙にダメなのである。このとてつもないタイミングの悪さだけはどうすることも出来ない。我々は情けなくも呆然と受け入れるのみである。ただただ屈服するしかないのだ。
ところで「夏の必需品」といえばクーラーであるが、わたしにとってのクーラーはガマンにガマンをかさねた末の最終手段である。基本的には5月の梅雨あたりから強力な相棒「除湿機」が大活躍するが、排気で少し部屋の温度はあがってしまうのだ。それでもカラッと過ごしやすくなるからいいのだが、あまりにも外の気温が上がりすぎると耐えられなくなる。そこで満を持しての”クーラー”の登場なのである。しかしわたしはギリギリまで結構ガマンをする。まあカラッカラにのどが渇いたときに飲むビールのような、あの感覚をあじわいたいのである。っといま書いていておもった。
そしてつい先日、まさにその時がやってきた。その日はもう暑いというか、部屋の中がもわっとしていて、ためしにいつものように除湿機をつけてはみたものの、除湿機から出てくる排気のもわっとした空気と相まって、さらにもわもわしてきた。これは耐えられない。ついにきた。例年よりちょっと早いが、わたしの気持ちは揺るがなかった。クーラーの出動だ。
わたしは迷わず備え付けのリモコンでエアコンのスイッチを入れた。すぐさまエアコンは動き出し強烈な空気を吐き出しはじめた。
がしかし、そのエアコンからはさらにもわっとした空気が出てるではないか。わたしはリモコンの画面を確かめた。
「あれ、暖房の設定になっている」
いけないよそれは!!こんな事態なのに。わたしのからだは先ほども説明したとおりカラッカラなのだ。ビールが飲みたいのだ。はやくビールが飲みたいのだ。わたしはすかさず運転切替のスイッチを押した。
「あれれ、運転が切り替わらない!」
わたしは爪がじんじんするほど切替ボタンを押してみたが、冷房には切り替わらず、ドライにすらならない。暖房の設定からいっこうに切り替わらないのだ。それはさながら駄々っ子が意固地に踏んばっているようにもおもえた。あいかわらずエアコンは強烈に熱風を吐き出しつづけている。
「こりゃ完全にリモコン壊れてんな」
とはおもったが、いまさらあきらめたくはない。何とかできないものか。わたしは温度だけは下げられないものかと、温度設定の下げるほうのボタンの押してみた。が下がらない。ためしに上げるほうのボタンを押してみる。すると温度設定が1度上がったではないか。
「なんだ、温度の切り替えはできるのか」
わたしはすぐさま、また下がるほうのボタンを押してみる。が下がらない。ためしにまた上がるほうのボタンを押してみると、また1度上がった。
「あれ・・・」
わたしはこの「ためしに・・」というのを4,5回くり返したために、温度設定はまたたく間に32度まで上がってしまった。駄々っ子のように意固地になった暖房のあいつは、今まさに、暴れまくるように熱風をはき出している。
ああもうダメダメ、ストップストップ。
わたしははとりあえずいったん、エアコンをスイッチを切って、腰をすえてとりかかることにした。
よく調べてみるとリモコンを裏からは、まあみごとに液もれした電池がでてきたが、新品に取り替えたところで、さしたる変化はなかった。
これはもう完全にリモコンはあきらめた。もうダメ。リモコンとかもうダメ。男はこうダイレクトに本体にドスンと手ごたえがある、なんかそういうスイッチでもないものか。
わたしは取説をじっくり読んだ。こうなったらもう真剣だ。するとあるではないか本体で直接操作できるスイッチが。わたしは取説に書いてあるとおりに本体のカバーをはずすと、真ん中あたりにちっちゃいボッチがあり、それを押すとみごとに自動運転のランプが点灯し、勢いよく冷たい風が吹き始めた。
「いやもう、さいこう、さいこう」
わたしは安堵感と、涼しげな爽快感をいつも以上に味わった。その日はいつもはしないが、エアコンをかけっぱなしにして寝ることにした。なぜかその心地よさのままねむりたかったのだ。
しかし明け方4時ごろ、わたしは異常な暑さと、あのもわっとした不快感でむりやり起きるはめになった。
みるとあのエアコンから、強烈な熱風が吐き出されていたのだ。
わたしはリモコンをみておどろいた。32度の暖房設定にもどってる。なんとわたしの自動設定をかいくぐり、32度のあいつがまた顔をだしていたのだ。
あいつはここぞとばかりに、おもいのままに強烈な熱風をはき出しつづけている。まるでいきり立った駄々っ子が、歯をむき出しにして暴れまくってるように。
わたしは、だるいからだのまま、しばし呆然とその駄々っ子をみつめていた。
そしてゆっくりと、エアコンのコンセントを抜いた。

もう、その日の朝は日本中でいちばんわたしの部屋がもわっとしていたにちがいない。